じ、しからずば汝ら魂は死せず、身は死すべしと言いしに取り来らず。因って汝ら必ず死すべし。イグアナとヴァラヌス(いずれも蜥蜴の類)と蛇は時々皮|蛻《ぬ》ぎ、不死《しせじ》と罵ったので、人間永く死を免れずと。フレザーかようの話を夥しく述べた後、諸方に蛇と蜥蜴が時々皮を蛻《ぬぎかえ》るを以て毎度若返るとし、昔この二物と人と死なぬよう競争して人敗し、必ず死ぬに定まったと信ずるが普通なりと結論したが、これも蛇や蜥蜴それから竜が崇拝さるる一理由らしい。
右の話にあるヴァラヌスは、アフリカから濠州まで産する大蜥蜴で、まず三十種ある、第五図はナイル河に住み、水を游《およ》ぐため尾が横|扁《ひらた》い。※[#「魚+王の中の空白部に口が四つ」、第3水準1−94−55]《がく》の卵を貪《むさぼ》り食うから土人に愛重さる。この一属は他の蜥蜴と異なり、舌が極めて長い。線条《いとすじ》二つに分れたるを揺り出す状《さま》蛇と同じ。故に支那でこれを蛇属としたらしく、〈鱗蛇また巨蟒、安南雲南諸処にあり、※[#「虫+冉」、183−7]蛇《うわばみ》の類にして四足あるものなり、春冬山に居し、夏秋水に居す、能く人を傷つく、土人殺してこれを食う、胆を取りて疾を治し甚だこれを貴重す〉という(『本草綱目』)。学名ヴァラヌス・サルヴァトル、北インドや支那から北濠州まで産し、長《たけ》七フィートに達しこの属の最大者だ。前に述べたカンボジア初王の前身大蜥蜴だった故、国民今に重舌《にまいじた》を遣《つか》うとあるはこの物だろう。セイロンではカバラゴヤと呼び、今もその膏《あぶら》を皮膚病に用い、また蒟醤葉《きんまのは》に少し傅《つ》けて人に噛ませ毒殺す。『翻訳名義集』に徳叉迦竜王《とくしゃかりょうおう》を現毒また多舌と訳しあるは、鱗蛇に相違なく、毒竜の信念は主にこの蜥蜴より出たのだろう。
[#「第5図 エジプトの大蜥蜴ヴァラヌス・ニロチクス」のキャプション付きの図(fig1916_05.png)入る]
仏在世、一種姓竜肉を食い、諸比丘またこれを食うあり、竜女仏の牀前《しょうぜん》に到りて泣く、因って仏竜の血骨筋髄一切食うを禁じ、身外皮膚病あらば竜の骨灰を塗るを聴《ゆる》すとあるも、この蜥蜴であろう。また倶梨迦羅竜王《くりからりゅうおう》支那で黒竜と訳し、不動明王の剣を纏《まと》い居る。これも梵名クリカラサで一種の蜥蜴
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