〈類自ら牝牡を為《な》す、食う者妬まず〉、類は『本草綱目』に霊狸《じゃこうねこ》の事とす。『嬉遊笑覧』九にいわく「『談往』に馮相詮という少年の事をいって『異物志』にいわく霊狸一体自ら陰陽を為す、故に能く人に媚ぶ皆天地不正の気云々」。これは霊狸の陰辺に霊狸香《シヴェット》を排泄する腺孔あるを見て牡の体に牝を兼ぬると謬《あやま》ったので古来|斑狼《ヒエーナ》が半男女だという説盛んに欧州やアフリカに行われたのも同じ事由と知らる。またブラウンは兎が既に孕んだ上へまた交会して孕み得る特質あるをその婬獣の名を博した一理由と説いたが、この事は兎が殖《ふ》えやすい訳としてアリストテレスやヘロドツスやプリニウスが夙《と》く述べた。それから『綱目』に〈『主物簿』いう孕環《ようかん》の兎は左腋に懐《いだ》く毛に文采あり、百五十年に至りて、環脳に転ず、能く形を隠すなり、王相の『雅述』にいわく兎は潦を以て鼈と為《な》り鼈は旱を以て兎と為る、※惑[#「※」は「勞」の中が「力」ではなく「火」、99−7]《けいわく》明らかならざればすなわち雉《ち》兎を生む〉と奇《あやし》い説を引き居る。『竹生島《ちくぶしま》』の謡曲
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