さわ》らず、およそ圃《ほ》の周り二畦三畦通りもかくのごとくすれば来る事なし、圃の中まで入りて食う事を知らず、米沢の深山中で山農の行うところなり」と、これより振《ふる》った珍法は『甲子夜話』十一に出で平戸《ひらど》で兎が麦畑を害するを避けんとて小さき札に狐の業《わざ》と兎が申すと書く、狐これを見て怒りて兎を責むるを恐れ兎害を止めると農夫伝え行う、この札立つれば兎難必ずやむは不思議だとある。英国にも兎径《ヘヤー・パス》という村や野が数あり兎が群れてその辺を通ったからこの名を生じた。兎の通路は熟兎のよりも一層|判然《はっきり》するという事だが、わが邦の兎道《うじ》などいう地名もこのような起因かも知れぬ。それから支那で跳兎、一名|蹶鼠《げっそ》というはモレンドルフ説にジプス・アンタラツスでこれは兎と同じ齧歯獣だが縁辺やや遠く、『本草綱目』に〈蹶は頭目毛色皆兎に似て爪足鼠に似る、前足わずか寸ばかり、後足尺に近し、尾また長くその端毛あり、一|跳《とび》数足、止まるとすなわち蹶《つまず》き仆《たお》る〉と出づ、英語でジャーボアといいて後脚至って長く外貌習慣共にオーストラリアのカンガルーに似た物だ(第
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