鶴が言っても己《おれ》が捷い、すなわち己が浜を伝うて向うに達する間に鶴に今相論じいる場所から真直に飛んで向うへやっと達し得ると言った、鶴しからば競争を試《や》って見ようと言うと蟹が応じたので二人一斉に一、二、三と言い畢《おわ》って鶴が一目散に飛び出す、蟹は徐《おもむろ》に穴に入って己《おれ》の眷属が到る処充満しいるから鶴はそれを己一人と惟《おも》うて騙《だま》される事と笑いいる、鶴が飛んでいる中|何処《どこ》へ往っても蟹の穴があるのを見て、さては己より前に蟹がそこへ来て早《はや》穴を掘って住んでいやがるかと不審してそこへ下りて耳を穴に当て聴いて見るとブツブツと蟹の沫《あわ》吹く音がする、また飛び上がって少し前へ往くとまた蟹の穴が見えるのでまた下りて聴くと沫の音する、早蟹がここまで来て穴を掘っておると思うて何度も何度も飛んでは聴き聴いてはまた飛び上がり、余り疲れてついに海に落ちて鶴は死んでしまった。また一つフィジー島で話すは鶴と蝶との競争で蝶が鶴に向い何とトンガ島まで飛んで見よ、かの島には汝の大好物の蝦《えび》が多いというに、鶴これに応じて海上を飛び行くその背へちょっと鶴が気付かぬように
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