という物ある証拠を一も得ない。しかしもし人に幽霊あらば畜生にも幽霊あるべしで、『淵鑑類函』四三一に司農卿|揚邁《ようまい》が兎の幽霊に遇った話を載せ、『法苑珠林』六九に王将軍殺生を好んでその女兎鳴の音のみ出して死んだとある。
『治部式《じぶしき》』に支那の古書から採って諸多の祥瑞を挙げた中に赤兎上瑞、白兎中瑞とある、赤兎はどんな物か知らぬが、漢末に〈人中に呂布あり馬中に赤兎あり〉と伝唱された名馬の号から推すと、まずは赤馬様の毛色の兎が稀《まれ》に出るを上瑞と尊んだのだろ、『類函』に〈『後魏書《こうぎしょ》』、兎あり後宮に入る、門官検問するに従って入るを得るなし、太祖|崔浩《さいこう》をしてその咎徴《きゅうちょう》を推せしむ、浩|以為《おもえ》らくまさに隣国|嬪※[#「※」は「おんな+嗇」、105−8]《ひんしょう》を貢する者あるべし、明年|姚興《ようこう》果して来り女を献ず〉すなわち白兎は色皙の別嬪が来る瑞兆《しるし》で、孝子の所へも来る由見え、また〈王者の恩耆老に加わりまた事に応ずる疾《はや》ければすなわち見《あらわ》る〉とあって、赤兎は〈王者の徳盛んなればすなわち至る〉と出《い》
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