ニには強勢な符を置いてこれを防ぎ、虎に殺された者の尸《しかばね》を一族の墓地に埋めぬとある、また正月ごとに林地の住民|豕《ぶた》一疋に村の判を捺《お》した寄進牒《きしんふだ》を添えて林中に置くと、虎が来て両《ふたつ》ながら取り去る、しからざる時はその村年中人多く啖わるとある。
それからアジアの民族中には虎をトテムと奉ずる者がある、例せばサカイ人に虎をトテムとするがある由(一九〇六年版スキートおよびプラグデン『巫来半島異教民種篇《ペーガン・レーセス・オヴ・ゼ・マレー・ペニンシュラ》』)。トテムとは、一人また一群一族の民と特種の物との間に切っても切れぬ天縁ありとするその物をトテム、その信念をトテミズムと名づくる、その原因については諸大家の学説|区々《まちまち》で今に落着せぬ(大正二年版『ゼ・ブリタニカ・イヤー・ブック』一六〇頁)。原因は判らぬが昔トテミズムが行われた遺風を察して、その民の祖先がトテムを奉じたと知り得る。すなわち虎を祖先と信じ虎を害《そこな》うを忌み、虎肉を食うを禁じ、虎を愛養したり、虎の遺物を保存したり、虎の死を哭《こく》したり礼を以て葬ったり、虎を敬せぬ者を罰したり、虎
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