ん》子文を生んだ、※[#「※」は「云+おおざと」、28−1]の夫人これを夢中に弃《す》てしむると、虎が自分の乳で子文を育った、※[#「※」は「云+おおざと」、28−2]子|田《かり》して見付け惧れ帰ると夫人実を以て告げ、ついに収めて育った、楚人乳を穀《こう》虎を於菟という、因って子文の幼名を闘穀於菟《とうこうおと》すなわち闘氏の子で虎の乳で育った者といったと見ゆ。ロメーンスの『動物知慧論《アニマル・インテリジェンス》』に猫が他の猫を養い甚だしきは鼠をすら乳する事を載せ、貝原益軒も猫は邪気多きものだが他の猫の孤《みなしご》をも己れの子同様に育つるは博愛だと言った。虎も猫の近類だから時として人や他の獣類の子を乳育せぬとも限らぬであろう。参考のため狼が人の子を乳育する事について述べよう。誰も知るごとくローマの始祖ロムルス兄弟は生れてほどなく川へ流され、パラチン山の麓に打ち上げられたところへ牝狼来て乳育したと言い伝う。後世これを解くにその説|区々《まちまち》で、中にはローマで牝狼をも下等娼妓をも同名で呼んだから実は下等の売淫女に養育されたんだと言った人もある、それはそれとしておき狼が人児を養う
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