殺した者あると聞いて吾輩|忙《いそ》いで町へ還《かえ》った、何故というと豹が殺された時は各町民が思うままに他町民と勝手次第に相掠奪す、殺した人が豹皮を王に献ずる日はその人思い付きのまま町のどの部分でも通り、その間家内にさえなくば何でもかでも押領し得るんだ、さてかの者自身縛られて王前に詣《いた》り叮嚀に豹首を布に包み携う、王問う「吾子よ何故汝はこの人(豹)を殺したか」、豹殺し対《こた》う「彼は甚だ危険な人で王の民の羊や鶏を夥しく殺しました」、王いわく「吾子よ汝は善くした、それじゃ彼の髯《ほおひげ》を数え見よ、汝も知る通りすべて三九二十七毛あるはずだ、一つでも足らなんだら汝は孤《わし》に布二匹を賠《はら》わにゃならぬ」、かの者答う「父よ勘定が合うて二十七毛確かにござります」、王「そんなら注意《きをつけて》髯を皆抜け、次に歯と爪と皮もことごとく取って孤の用に立てよ」、豹殺し命のまにまに抜き取り剥ぎ取りおわる、ここにおいて王言う「吾子よ汝は大勇の猟師だから爾後狩に出る時食事を調《ととの》うる者を欲しいだろ、因ってこの若い嬢子《むすめ》を汝の婢なり妾なりにして取って置け」と聞いて豹殺し腰抜かすば
前へ
次へ
全132ページ中18ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
南方 熊楠 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング