ヘ流産となるが争闘の果ては人魂が毎《いつ》も虎魂に克《か》つ。またこの菌に托る虎魂はかつて死んだ虎の魂でなくてカリ神が新たに作り種|蒔《ま》くごとく撒賦《まきくば》ったものだ。また虎魂が産婦現に分身するところを襲い悩ます事あり、方士《ブット》を招き禁厭《まじない》してこれを救うそうだ(スキートおよびプラグデンの書、上出三―五頁)。同書にジャクン族はその族王の魂は身後虎鹿豕鰐の体に住むと堅く信ずという。またベシシ族間に行わるる虎が唄うた滑稽謡を載せ居る。虎が虎固有の謡を唄うと信ずるのだ、セマン人信ずらく虎と蛇は毎《いつ》も仲|宜《よ》かった。かつて虎が人を侵すをプレ神|※[#「※」は「きへん+解」、83−4]《ミスルトー》寄生の枝もて追い払うた、爾後《じご》虎はプレ神の敵となり※[#「※」は「きへん+解」、83−5]寄生を滅ぼさんとすると蛇これに加勢した。犀鳥《ライノセラス・バード》は神方で蛇の頸を銜《くわ》え持ち行くところへプレ神が来る。鳥何か言い掛けると蛇を喙《くちばし》から堕《おと》す。その頭をプレ神踏まえて鳥に虎を追わしめた。蛇の頭|膨《ふく》れたるはプレ神に踏まれたからで鳥に啄《ついば》まれた頸へ斑が出来た。それから犀鳥が蛇を見れば必ず殺し虎を見れば必ず叫んで追い去らんとす。故に虎を射る場合に限り犀鳥の羽を矧《は》いだ矢を用いてこれに厭《まじない》勝つのだ。またベシシ族の術士はチンドウェー・リマウ(虎チンドウェー)という小草を磨潰《すりつぶ》し胸に塗ると虎に勝ち得るという。この草の葉に虎皮同様の条紋ありその条紋を擬して術士の身に描く、セマン人言う藪中に多き木蛭《きびる》が人の血を吮《すす》るを引き離し小舎《こや》外で焼くと虎血の焦げる臭いを知って必ず急ぎ来る。また吹箭《ふきや》もて猟に行く人の跡を随行また呼び戻すために追い駆ける者を虎|疾《にく》んできっとこれを搏ちに掛かると。
智者大師説『金光明経文句』の釈捨身|品《ぼん》の虎子頭上七点あるを見て生まれてすでに七日なるを知る事『山海経』に出《い》づとあるが、予はかかる事『山海経』にあるを記《おぼ》えず。また件《くだん》の説はインド説か支那説かまた智者自身の手製か否かをも知らぬ。
西北インドの俗、表が裏より狭き家をガウムクハ(牛顔)、表が裏より広き家をシェルダハン(虎顔)と呼び、牛顔を吉虎顔を凶とす(『パ
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