それらの店の人たちはみんな、朝のかざりつけにせわしそうに働いていました。ぼろぼろによごれた、きたない着物をきている、ちっぽけな子どもなんかに目もくれる人はありません。それほどみんなはせわしかったのです。往来《おうらい》にはつめたい風が吹いているし、今はもう暮《く》れの売出《うりだ》しの時節《じせつ》です。
清造はだまってぼつぼつ歩いていました。お腹《なか》もぺこぺこに減《へ》っていましたが、なにか買って食べるお金なんか一|文《もん》も持っていなかったのです。めし屋ののれん[#「のれん」に傍点]の中からは、味噌汁《みそしる》やご飯《はん》の香《かお》りがうえきった清造の鼻先《はなさき》に、しみつくようににおってきました。しかし清造はぺこぺこにへこんだお腹をそっとおさえて、悲しそうにいき過ぎるよりほかにしかたがありませんでした。
このにぎやかな町にはいってから、五、六|町《ちょう》歩《ある》くうちに清造はどこの店も、自分にはまるで用《よう》のないものだということを、小さな頭にさとりました。唐物屋《とうぶつや》だの呉服店《ごふくてん》などに、どんなにきれいなものがかざってあっても、今の清
前へ
次へ
全15ページ中3ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮島 資夫 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング