ほんとうは、それはまだ、東京の郊外《こうがい》の、ちょっとした新開地《しんかいち》にしかすぎません。けれども、今まで山の中にばっかり育《そだ》って、あまり町を見たことのない清造の目には、それがどんなに美しくうつったことでしょう。清造はすっかり驚《おどろ》きました。そうしてこの町をひいていく、馬力《ばりき》や牛車《ぎゅうしゃ》がどんなに長くつづいているのだろう。こんなたくさんの車や人が、どこからこうして出てくるのだろう。――おまけにその間を、自動車が、ブーッ、ブッと、すさまじい音をたてて、新開地のでこぼこ道を、がたがたゆれながら、勢《いきお》いよく走っていきます。清造はまったくびっくりしてしまいました。
 しかし、これでやっと東京へ着《つ》いたのだ、と思うと、かれはやはりうれしくなりました。どんなに貧《まず》しい人でも、東京へさえいけば、なにか働《はたら》く道もあるし、りっぱになれるということを村の人たちから聞かされていたからです。けれどもそうして働くには、どこへいって、どんな人に頼《たの》んだらいいのか清造にはわかりませんでした。
 町の両側《りょうがわ》の店をのぞきながら歩いても、
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