清造と沼
宮島資夫

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)清造《せいぞう》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)一|文《もん》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)めし屋ののれん[#「のれん」に傍点]
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     一

 清造《せいぞう》はその朝になって、やっとにぎやかな町に出ました。それは、清造の生まれた山奥《やまおく》の村を出てから、もう九日目くらいのことでした。それまでにも、小さな町や村は通ったことがありましたが、これほどにぎやかな町に出たのはこれがはじめてです。町の両側《りょうがわ》には新しい家がならんでいました。そうしてそれらの店《みせ》には、うまそうなおかしだの、おもちゃのようにきれいなかんづめだの、赤や青のレッテルをはったびんなどが、みがきたてたガラスの中にかざってありました。
 すきとおるような、冬の朝の日の光に、それらの店やびんやおかしが、美しく光《ひか》っていました。店の前に立てた、赤地《あかじ》に白くそめ出した長い旗《はた》が、氷をふくんだような朝の風に、はたはたと寒そうに鳴っていました。

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