いつでもあの沼のことを思い出しました。そこでかれはじっと目をつぶると、沼にはあわが浮《う》かんで来ます。あし[#「あし」に傍点]の葉の枯《か》れている時もありました。はすの花の咲《さ》いているときもあるし、ほたるの飛んだ晩《ばん》もあったし、氷《こおり》の上に雪のつもっているときもありました。
 あるとき、清造は、張《は》りそこなったうちわ[#「うちわ」に傍点]の裏に、あし[#「あし」に傍点]の枯《か》れた沼のおもてに、大きなあわの浮《う》かんだ絵をかいてみました。それはまったく、子どものかいた無邪気《むじゃき》な絵でした。けれどもおやじさんはそれを見ると、
「うまい、感心だ。」といって、よろこびました。そうして、「もう一枚かいてみろ。」と、今度は新しいせんす[#「せんす」に傍点]をくれました。清造はしばらく目をつぶってから、青黒《あおぐろ》くよどんだ水の上に、大きなあわがふたつぽかりと浮《う》かんだところをかきました。
「おまえはいまにきっと名人《めいじん》になれる。おれが先生に頼《たの》んでやる。」
 おやじさんは自分の子のことのように喜びました。そうして、おやじさんのひいき[#「
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