ふのである。第一と第三とは、共に第二の樣に動的でなくして靜的であるといふ點に於ては同一であるけれども、前者は苦或は苦の對象其物には毫も美や、樂や、意義を認めぬのである。後者は、苦若くは苦の對象其物に、美や、樂や、意義を認むるのである。であるから、前者の樂は消極的であつて、後者の樂は積極的である。又、第二と第三とは、第一の樣に受動的でなく服從的でないといふ點に於ては一致して居るけれども、前者は排他的の態度を以て苦に對し、後者は包容的の態度を以て之に對するのである。前者は苦に對して戰鬪の姿勢を取り、後者は之に對して平和の姿勢を取る。而かも其平和は决して第一の樣に服從的の平和ではない。
 勿論、此三者は、唯、抽象の結果、類型的の形[#「類型的の形」に白丸傍点]を示したものに過ぎませんから、個々の具象的の塲合に於ては此中間の形があつて、三者中の孰れに屬するか分らぬものが多く、又一人の人で、場合によつて、甲の類型に依ることもあれば、乙の類型に依ることもあるといふ樣なことは必ずあるに相違ありませんが、併しながら、個々の具象的の塲合に於て、何れの要素かゞ多量を占め居るとか、又は、人によつて重もに何れかの類型によるといふ樣なことは必ず言ひ得るに違ひないと思ひます。
 又、あきらむるにせよ、健鬪するにせよ、樂觀するにせよ、已にあきらめ、健鬪し、樂觀することゝなつた以上は夫れは最早苦ではないのであるから、其結果から言へば三者共に樂觀するといふことになるかも知れませんけれども、併しながら、其苦に逢着した刹那に於ける精神の状態と、其結果に到着するまでの道行きとは隨分ちがつて居ります。尚又一歩を進めて言へば、其所謂結果と稱するものにても、嚴密に言へば决して純粹に快樂の感情のみではなくして、苦と樂とが律動《リズム》的に交替起伏して居るのでありますから、此苦樂の律動の交替の間に於ても、尚ほ、前に擧げたる三個の類型中の孰れかゞ、全くか、若くは重もにか、働いて居るには相違ないのでありますから、結果其物も亦三樣の類型に區別さるゝのであります。

     二 惡に對する三種の態度

 大そうヘーゲル[#「ヘーゲル」に傍線]流になりますが、惡或は罪に對する我々の態度も亦、上に述べた處と同樣、三種の類型がある樣に思はれます。第一は、どうせ罪惡は不完全の人生に避くべからざるものであるから致方がない、不滿足ではあるが、先づ/\大目に看て置くより外はないといふのである。第二は、自分の主義と相容れぬものに對しては飽くまでも嚴肅の態度を取り、罪惡と健鬪するのである。第三は罪惡其物に一種の意義を認め、ユーモア的に罪惡を視るのである。
 第一と第二とは、共に、惡は厭くまでも惡として視るのであつて、毫も之に意義を認むるものではない。此點に於ては兩者共に一致するのであります。併しながら、前者は受動的で後者は能動的である。前者は罪惡を看過し、後者は之を打破せんとするのであります。第一と第三とは、共に、惡に對して寛容の態度を取つて居る點に於ては同一であるけれども、前者は冷淡に寛容の態度を取り、後者は好意的に寛容の態度を取るのである。前者は reluctantly に罪惡を許し、後者は willingly に罪惡を許す。前者は罪惡に何等の意義をも認めて居らぬけれども、後者は之に何等かの意義を認めて居る。又、第二と第三とは、罪惡に對して無頓着の態度を取らぬといふ點に於ては一致して居るけれども、前者は敵愾心を以て之に對し、後者は同情を以て之に對する。前者は戰士として罪惡に對し、後者は慈母として之に對する。
 偖て、苦及び惡(兩者を兼ねたる語を用うれば、禍惡、evil 或は 〔U:bel〕)に對する態度に上に擧げた樣な三種の類型があることを許しまして、此處に、宗教上哲學上などの偉人の性格や思想に矢張り各此類型を代表するものがあると思ふのであります。

     三 三種の禍惡に該當する宇宙觀

 前に述べたる禍惡に對する三種の態度を我々は、便宜上、順次に知的、意的、情的と呼んでよかろうと思ひます。
 第一の禍惡觀は重もに學理的の徑路だけを履んで到達することが出來る。樂であれ、苦であれ、善であれ、惡であれ、一切の事象は避くべからざることであること、必然の理法によつて起るのであつて、悶へても、祈つても詮ないことであるといふことを悟れば足るのであります。此苦とか、樂とか、善とか、惡とかゞ、皆な何等かの意義を有して居るものであるといふ觀念と、從つて、我々は自ら進んで禍惡と戰ひ、苦を冒し(第二の禍惡觀)若くは、歡喜の情を以て禍惡其物を美觀樂觀せねばならぬ(第三の禍惡觀)といふ樣な觀念は無いのである。第一の禍惡觀は、宇宙秩序に目的[#「目的」に白丸傍点]といふものを認めずとも成立つものである、換言すれば純粹
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