て、宮庭に歸つて、復命した。丁度織屋から聽いた通りのことを申述べて、其色澤の美や意匠の妙を賞贊した。其處で帝は又試驗の爲めに他の役人をば代る/\差遣する。職人は不相變の手で甘く之を瞞着する。役人共は皆な自分の信用を落すまいと思つて、如何にも感心した振りで其説明を聞いて行つて之を帝に復命した。帝は大滿足である。荒増し織物が出來上るといふ時分に今度は帝親ら其の仕事の摸樣を御覽になる。不相變織物も見えなければ糸も見えない。併し見えぬと言ては自分の威嚴に關係する。其處で切りに御賞の言葉が下る。二人の職人には即座に宮庭織物御用掛といふ官職を御授けになつた。愈織物が出來上つて、或祭日を期して其召初めがあるといふことに决定した。仕立上つたといふので宮廷織物御用掛は其召物をば恭しく捧げて伺候する。皇帝は今迄の上衣を悉く脱ぎ棄てゝ、シヤツとヅボン下だけになる。御用掛は勿體らしくチヨツキやヅボンを着せる眞似をする。皇帝は之を着る身振りをする。姿見に自分の姿の映るのを眺めて切りに滿足の状を示される。御附きの連中も亦切りに賞贊の辭を洩す。頓て御召替が濟んで皇帝は階段を降つて馬に乘られる。二人の侍從は恭しく不思
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