、彼もし立法者なりせば立法すべき規範をみずから創定し、これを規準として裁判を与うべきであって、法規不存在のゆえをもって裁判を拒絶すべきではない。このことは、これに関する理論的説明ないしこれに関する裁判官の主観的意識それ自体にいろいろの差異あるにもかかわらず、現に一般裁判官によって遵守されている行動規準である。しかるに現在一般の役人は彼らが法規的に行動することを命ぜられていることから、ただちに法規の不存在は行動の不可能を意味するという結論を導き出しているように考えられる。彼らといえども行動の必要を感じ、しかもその規準たるべき法規を発見しえない場合には、事物の性質に応じてみずから適当なる法規を創定しつつ、これに従って行動しさえすればいいのである。しかるに、法規の不存在によってとかく行動の拒絶を理由づけようとするのが、現在の役人一般に通ずる弊風であって、私はそれを法治主義の誤解に由来するものとして排斥したいのである。
理屈をいってみればまあこんなことだが、現在のお役所には決して通用しない理屈である。だから役人として今の世に出世しようとする人々は夢にもこんな理屈にかぶれてはいけない。なるべく
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