律家の目からみると、これら技術出の役人の法律論は最も法律学から遠いものであるのだが、役人仲間ではああした法律論が最も役に立つので、いやしくも役人として出世せんとする以上、すべてその術を習得せねばならない。いかに相手のいうことが条理にかなっていると思っても、容易にその前に頭を下げるようではいけない。条理などは無視して法規一点張りで相手をねじふせなくてはいけない。どうもあの男は理屈ばかりこねてものがわからない、といわれるようにならなければとうてい役人として出世しない。
だから、今日われわれが教えているように、まず社会があり社会生活があっての法律である、というような考え方は役人にとって禁物である。よき役人はよろしく概念法学流に法規を材料としてなるべく簡単に取り扱えるような概念的範疇を用意すべきである。ひとの迷惑などを考えてはいけない。ちょうど軍隊で靴や着物に大中小三種類を作っておいてむりにもそのいずれかを着させるように、そうしてそのいずれをも着れないような大男や小男を兵隊にとらないように、なるべく簡単な概念的形式を作っておいて、相手のいうことをむりにもそのいずれかの中に押し込むか、またその
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