い。すべての行政事務が実質的には比較的教養の足りない属官らの手中ににぎられて、長官はただ自身の出世を目標としつつ形式上その上に短期間すわっているというような実情が生ずるのはこれがためである。専門的知識をもたない、そうして任期の短い長官は、素人考えからいたずらに功績をのみ急ぐ。しっくりおちついて気永に考えるによってのみ適当に処理しうべき事務が個々の長官の個人的功名心満足の対象物になって実質的にその成績をあげえない。これでは下僚といえども真に身を入れて仕事をする気になれない。百害の因はまさにこの点に存するのであるが、現在の実情はまさにこのとおりである。
だから私はこの実情に対して根本的革正の加えられることを希望してやまないのだが、今若い一人の役人としてこの官海に飛び込まれた君に対しては、ただ実情はかくのごときものだからそのつもりでいないと出世の妨げになるぞという忠言を与えるのほか何事もできない。このことは平素かなり理想家である君に相当の失望を与えるに違いないと想像するが、事実は事実だからどうにもならない。君もいやしくも出世を希望するかぎり、夢にも専門家になってはいけない。万事を広くかつ浅
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