はない、その人を役人としてある程度に昇進させる必要がある場合に、たまたまその必要なる昇進を与えるに適する地位が学務部長であれば、本人の知識技能いかんを問わずして学務部長に任用するのである。またある人が不良少年の教化に特別の興味を感じて少年審判所に勤めていても、官制の関係上その勤務をつづけるかぎり、ある程度以上に官等も上らず俸給も上ることをえない。したがって役人として相当の昇進を希望するかぎり、一生を不良少年の教化にささげるようなことは絶対に不可能である。だから特殊の専門的知識ないし技能を要すべき地位でも、決して必要な知識ないし技能を有する役人がそれを占めるとは限らないので、すべてはただ人繰りの関係から決められるのである。だから特殊の事務に興味を感じてそのほうの専門家になると、自然ほかに融通がきかないため、なかなか出世できない。そうしてほかから人繰りの関係上どんどん専門の知識なき役人が上役として転任してくる。だから出世という妄念をたちきってお寺にでも入った気でなければ、特殊行政の専門家になることはできないのである。
 むろんこういうことが官吏制度として望ましいことでないことはいうまでもな
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