注意を集中するがごときことなきを要す。
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君ら若い方々はとかく理想にとらわれて一生をある種の事柄にささげたい、それには役人として自分の好むある種の事柄に力を集中してその道の専門的達人になりたい、というふうに考えがちであるが、君がもしも役人として出世を希望するのであるとすれば、かくのごとき態度は根本的に間違っている。現在の官制および官吏任用の実際は、ある種の行政事務に特別の興味を有し、したがって特殊の知識技能を有する役人が一生をその事務にささげつつ適当に出世しうるようにできていない。今まで××島支庁長をしていた人間を突然地方職業紹介事務局長にしたり、昨日まで法制局で法規立案の形式的事務に従事していた人を産業行政の局長にするようなことは現在の官海では尋常茶飯事である。先日ある医学博士は昨日まで警視庁の消防部長であった役人が急に衛生部長になるのはおかしいという主旨のことを新聞紙上に書いておられたが、現在の役人にとってはそういうことはなんらの不思議もない普通の事柄である。ある人を学務部長とする場合にも決してその人が教育事務の主任者として適当であるかどうかを考えるので
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