いかに複雑な法規を作っておいても、世の中のほうが更に一層複雑にできているから、結局法規の予想しない出来事が現れて処置に困ることとなるからである。そこで結局、法規としては単に抽象的な法則を作っておくに止めて、あとは解釈によってそこから複雑な法を導き出すような仕組にするのほかないのである。
 法規がかかる性質のものである以上、個々の具体的事実に当てはまるべき法が解釈を待って明らかになるのは已むを得ないことであるのみならず、ときには解釈者の意見によって何が法であるかについての見解が分れることがあり得るのも已むを得ないことで、それほど世の中そのものが、あらかじめいちいち法を明らかにしておくことができないほど複雑にできているのである。
 かくのごとく、法規が初めから解釈を予定してできている以上、法規を取り扱う者は解釈によって法を明らかにする技術を心得ていなければならない。そして、その技術の種類およびその使い方については自ずから一定の決りがあり、またいろいろの理論もあるから、法学を学ぶ者は、少なくともそれらを習得して、自ら解釈を通して個々の場合に当てはまるべき法を見出す能力を体得する必要がある。従
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