るから、法学的素養のある人の解釈を通してのみ、その法令全体の意味も、また一々の法規に含まれている法が何であるかもわかり得るのである。
 理解を助けるために一つの例を引くと、刑法第二三五条の「他人ノ財物ヲ窃取シタル者ハ窃盗ノ罪ト為シ十年以下ノ懲役二処ス」という規定のように、一見平明に見える法規でさえも、これを実際に起る個々の具体的の事件に当てはめることを目的として解釈してみると、一つ一つの言葉の意味について、例えば「財物」とは何か、「他人ノ[#「他人ノ」に傍点]財物」とは何か、また「窃取」とは何かというような具合にいちいち疑問が起り、それをどう解釈するかによって、一定の行為が窃盗罪としてこの規定の適用を受けるかどうかが決るようにできているのである。
 それでは、どうしていちいち解釈を経なければ法が何であるかが解らないような法規を作るのか、もっと平明に法そのものを法規として書き表すことはできないものであろうか。それは要するに、世の中の出来事が複雑多岐を極めているから、そのすべてを予想してその一々に適用される法を法規にしようとすると、非常に複雑な法規を作らねばならないことになり、また、たとえ
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