学、美術などの諸方面においてはすでに大きく現われていると思う。しかるに法律学においては今日なお小知恵が専制しています。それで小知恵をふるい万事を理屈どおりやってみたが、さて出来上ったものはなんとなく人間味が欠けている。これが真に生きた世の中を規律しうるとはどうしても思えない。そこで私はいいたいのです。理屈大いに可なり、しかしその理屈が小さな狭いものであれば、すでになんの役にも立たぬ。また世の中には理屈だけではどうしても解けない複雑なことがたくさんある。人間の生活関係のごときはその最もいちじるしいものの一つで、これを規律する法律および法律学にはどうしても理屈を超越した、現実そのものをありのままに観察して得られるところの幾多の非理知的分子を附加して考えなければならないと思います。これがまず今晩のお話の緒言であり、同時に解題となるわけであります。
 それでこれから以下、以上の思想をもとにして、現在の法律をしてもっと人間味のある誰にもなるほどと思われるようなものにするにはどうしたらよいのか、それを説明してみたいと思います。
 そこで、法律の存在が一般に諸君の眼に触れるところはどこかというと、第
前へ 次へ
全31ページ中10ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
末弘 厳太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング