とるべき態度を踏み違えたものといわなければなりません。
 しかしながら、よくよく考えてみると、かくのごときことは、現在の日本においてひとり法律家のみの行うところではない。実際からいえば現在の世の中のすべてが、いわば小知恵の行きづまりである。第一八世紀以来漸次に自然科学が発達をとげると同時に、自然科学の力を借りれば万事がたちどころに説明がつく、したがって万事が経験と理知とで説明されうるというようなことを、世の中一般の人が軽々しく考えるようになり、ついには現在まだわずかしか発達していない自然科学をもってすでになにかよほど完全なもののように考え、これで万事きりもりしてゆけると考えるようになった。ところが実際の宇宙はもっともっと複雑な深遠なもので、とうてい今日の程度の自然科学ではいかんともしがたいのである。ところがこの種の考え方はすべての方面を支配して、かつては文学にも美術にまでも現われたのである。しかし世の中はもっと複雑です。理屈だけではとうてい説明できず、またわれわれが満足しないのです。そこで小さな理屈にのみ拘泥せずに、人生そのものの現実を直視して、真相をとらえなければならぬ。その傾向は文
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