上に実現することができない。しからば、彼らはその矛盾した苦しいせとぎわをいかにしてくぐりぬけるか? その際彼らの使う武器は常に必ず「嘘」です。
 むろん、裁判官――ことに保守的分子の優勢な社会または法治国における裁判官――が、かかる態度をとることはやむをえません。なぜならば、彼らはこの方法によってでも「法」と「人間」との調和をとってゆかねばならぬ苦しい地位にあるのですから。ところが、法律上、社会上毫もかかる拘束を受けていない人々――学者――がみずからのとらわれている「伝統」や「独断」と「人間の要求」とのつじつまを合わせるために、有意または無意的に「嘘」をついて平然としているのをみるとき、われわれはとうていその可なるゆえんを発見することができないのです。彼らがこの際採るべき態度は、一方においては法の改正でなければなりません。他方においてはまた、法の伸縮力を肯定し創造することでなければなりません。わずかに「嘘」の方法によって「法」と「人間」との調和を計りえた彼らが、これによって彼らみずからの「独断」や「伝統」を防衛し保存しえたりとなすならば、それは大なる自己錯覚でなければなりません。

 
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