て右岸に鉄壁をきずく。水は鉄壁に突き当ってこれを破り去らんとする。しかも、事実それが不可能なことに気づくとき水は転じて左岸をつく。そうしてその軟い岸を蹴破ってとうとうと流れ下る。この際右岸の鉄壁上に眠りつつ太平楽を夢みるものあらば、たれかこれを愚なりとせぬものがあろうか。世の中に「自由法」なることを主張する者があります。そうしてまた「自由法否なり」として絶対的にこれに反対する人もあります。その「反対」する人々は大河をせき止めえた夢をみてみずから「壮美」を感ずる人々です。しかも実は左岸の破り去られつつあることに気のつかない人々です。それらの人々は、すべからく書斎を去り赤煉瓦のお役所を出でて、現実を現実としてその生まれたままの眼をもって、ありのままを直視すべきです。たいして骨を折ることはいりません。ただちに対岸の破壊せられつつあるのに気が付くでしょう。ところが、彼らの中にも利口者があります。口では「法は固定的なものだ」と主張しつつ実際上これを固定的に取り扱って「壮美」を味わうだけの勇気のない人々です。彼らは、従来伝統ないし独断にとらわれて口先では法の「固定」を説きます。しかし、それを行いの
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