ごときものである以上、そこに行わるべき法律はその「矛盾」した「わがままかって」な要求を充たしうるものでなければなりません。なぜならば、われわれは空想的な「理想国」の法を考えるのではなくて、現実の人間世界の法律を考えるのですから。
 しかるに、従来法を論ずる者の多数は人間を解してかかる「矛盾」した「わがままかって」なものだと考えていないようです。その結果、彼らのある者は、いやしくも人間が「法の前に平等」たらんことを希望する以上、同時に伸縮自在の「法」を要求してはならぬと主張する。そうして現存の「法」がある具体的の場合に、これを適用すると普通の人間の眼から見ていかにも不当だと思われる場合でも、「それは法である。適用されねばならぬ」という一言のもとにその法を適用してしまう。その態度はいかにも勇ましい。しかし、かくのごとくに勇ましくも断行した冷くして固きこと鉄のごとき彼らは、はたして内心になんらの不安もないでしょうか? 否、彼らもまた人間です。美しきを見て美しと思い、悲しきを聴いて悲しと思う人間です。必ずや、かくして人を斬った彼らの心の中には「男の涙」が流れているに違いない。もしも流れていない
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