す。
法治主義というのは、あらかじめ法律を定めておいて、万事をそれに従ってきりもりしようという主義です。いわばあらかじめ「法律」という物差しを作っておく主義です。ところが元来「物差し」は固定的なるをもって本質とするのです。「伸縮自在な物差し」それは自家撞着の観念です。例えば、ゴムでできた伸縮自在の物差しを使って布を売る呉服屋があるとしたら、おそらくなにびともこれを信用する人はないでしょう。同じように国家に法律があっても、もしもそれがむやみやたらに伸縮したならば、国民は必ずや拠るべきところを知ることができないで、不平を唱えるに決まってます。
ところが、それほど「公平」好きな人間でも、もしも「法律」の物差しが少しも伸縮しない絶対的固定的なものであったとすれば、必ずやまた不平を唱えるに決まっています。人間は「公平」を要求しつつ同時に「杓子定規」を憎むものです。したがって一見きわめて矛盾したわがままかってなことを要求するものだといわねばなりません。しかし、かりにそれが実際に「矛盾」であり「わがままかって」であるとしても、人間はかくのごときものなのだから仕方がありません。そうして人間がかくの
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