の許可を得ないでもいい。したがって右の契約は取り消しえないことになるのだが、あいにくと本件についてはそういう事情もないので、形式上はどうも妻の言分を採用せねばならぬようであった。ところが裁判所は「夫ガ出稼ノ為ニ、妻子ヲ故郷ニ残シテ遠ク海外ニ渡航シ、数年間妻子ニ対スル送金ヲ絶チタルガ如キ場合ニ在リテハ、其留守宅ニ相当ナル資産アリテ生活費ニ充ツルコトヲ得ルガ如キ特別ナル事状ナキ限リハ、妻ニ於テ一家ノ生活ヲ維持シ子女ノ教養ヲ全ウスルガ為メニ、其必要ナル程度ニ於テ借財ヲ為シ以テ一家ノ生計ヲ維持スルコトハ、夫ニ於テ予メ之ヲ許可シ居リタルモノト認ムベキハ条理上当然ニシテ、斯ク解シテ始テ其裁判ハ悉ク情理ヲ尽シタルモノト謂ハザル可カラズ」という理由で、妻を敗訴せしめた。この場合、妻が許可を得ていないのは事実なのです。しかし得ていないとすると、結果が悪い、貸主に気の毒だ、というわけあいで、裁判所は「許可」を擬制してしまったのです。すなわち事実許可はないのだが、表面上これありたるごとくに装い、それを飾るがために「条理上当然」とか「悉ク情理ヲ尽」すとかいうような言葉を使ったのです。この判決が出たときに、わが
前へ
次へ
全46ページ中25ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
末弘 厳太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング