ことは岡さんからお聞きして懐かしく思っています」と、幾分か話がはずんできた。私は、「お噂は岡から承って、大へんお慕いして居りますので、加減がいいとつれて参ったのですが」と語り出して、残してきた病床の妹の事が案じられた。女史は京の新茶と珍菓を出して、もてなされた。
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一椀のうす茶の上に風わたり言葉すくなに
対う半日
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 私はこの時いい気持になって、蓮月尼の事を話しかけた。「蓮月尼の『岡崎の里のねざめにきこゆなり北白川の山ほととぎす』が私は好きで、その起き臥した跡を尋ねたいと思いながら、今度は果しませんでした。私は尼の手づくりの花瓶を持っていますが、それには歌も絵も得意のなりわいの麗筆で書いてあります。手づくりの陶器を生業にしていたことは、『手すさびのはかなきものを持出てうるまの市に立つぞわびしき』の歌で知られますが、その人と為りをなつかしんで居ります私はその庵あとでもたずねて、過ぎし日を偲びたいと思っているのです。昔、中学生の時分に、父に伴れられて西加茂の神光院をおとずれた私は、蓮月の事など、てんで頭になかったものですから、そこに晩年を送られ
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