用いる鼻で嗅がせる気附薬、炭酸アムモニウムのこと。酢はやはり嗅剤で気附薬にしたもの。
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 〔第五章 酒店〕
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サン・タントワヌ  パリーの東方の廓外、バスティーユ牢獄とセーヌ河との間の一区域。下層階級の住んでいた地域であった。
やがて、そういう葡萄酒もまた…………  革命の勃発を暗示するのである。「そういう葡萄酒」とは、もちろん、前文の「血」をさす。フランス革命はこのサン・タントワヌにおける暴動から始ったのである。
サン・タントワヌの聖なる御顔…………  サン・タントワヌはキリスト教教父の聖《サント》アントワヌ(英語読みならば聖《セント》アントニー)の名をとった地名であるので、ここではその語を街と聖者との両方にかけたのである。このサン・タントワヌの擬人法は、この物語では、この後にしばしば用いられている。
実際それらは海上に…………  この「灯」はフランスの運命を、「船」は国を、「船員」は国民を、「嵐」は革命を象徴するのであろう。
痩せこけた案山子たち  貧民をさす。「案山子」という語は「襤褸を著た人」をも意味するからである。
その点灯夫のやり方を改良して…………  革命の時に、街灯柱を絞首台代りにして、民衆の敵を滑車綱で吊り上げて絞殺したのである。
鳴声も羽毛も美しい鳥ども  貴族をさす。
肩を竦める  不快、当惑、平気、冷淡などをあらわす身振り。
ドミノーズ  二十八箇の牌子を使って二人または数人でやる遊戯。
ジャーク  この名はフランス革命の運動を組織したと信ぜられる秘密結社の合言葉であった。
洗礼名  洗礼式の時に附けられる名。ここでは、もちろん、「ジャーク」のこと。
マダーム・ドファルジュは……編物をして…………  このマダーム・ドファルジュが常に編物をしている理由はよほど後(第二巻第十五章)になって明かになる。
ノートル・ダム  パリーの有名な大寺院。サン・タントワヌの西方市の中央にあり、その大伽藍の上には二つの巨大な塔が聳え立っている。
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 〔第六章 靴造り〕
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何と有難いことでしょう!  彼の涙によって彼の智能が幾分か甦ったことがわかったからである。
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〔第二巻 黄金の糸〕
 〔第一章 五年後〕
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フリート街  旧ロンドン市の西の境界であったテムプル関門から東へ通じている街。
悪しき交りがそれの善き光沢を…………  新約全書コリント前書第十五章第三十三節の「悪しき交りは善き行いを害うなり。」という句から言ったのであろう。
バーミサイドの部屋  「千一夜物語」すなわち「アラビア夜話」の中に、バグダッドの富豪バーミサイド家の人がある時シャカバックという乞食を饗宴に招いたが、立派な食器の中は皆空であった、それをシャカバックは実際に飲食するような身振りをして見せた、云々、という有名な話がある。その話から、このテルソン銀行の階上の、大きな食卓だけは置いてあるが食事のあったことがないという部屋を、諧謔的に「バーミサイドの部屋」と呼んだのである。
アビシニアかアシャンティーにふさわしい……曝されている首  アビシニアはエチオピアのこと。アシャンティーは西部アフリカの黄金海岸の北にあった王国で、一九〇一年にイギリス領となったのだから、この作の書かれた当時はまだ独立国であった。共に黒人の国で、首斬りの蛮風がごく普通に行われていたのであろう。テムプル関門には、往時、処刑者の首や肢体をその上に曝したのであった。
青黴  チーズなどに生ずるものをいう。
ハウンヅディッチ  ロンドンの東部の一区域。
代理人を立てて……誓った時に  「洗礼式の時に」という意味を諧謔的に言ったのである。すなわち、このクランチャーはジェリーという洗礼名であり、第一巻に出て来たあの使いの者なのである。
ホワイトフライアーズ  ロンドンのテムプルに近い一区域。フリート街からテムズ河までに拡がる。
クランチャー氏自身はわが主の紀元のことを…………  「わが主の年にて」すなわち「キリスト紀元」という意味のラテン語を英語読みにして「アノー・ドミナイ」という。それをわがクランチャー君はアナという名の女がドミノーズを発明した年という意味だと思っていたのである。
ハーリクィンのように…………  ハーリクィンは黙劇《パントマイム》に出て来る道化役の一人で、常に派手な雑色の衣裳を著ているので、クランチャーが補綴だらけの蒲団をかぶっているのを、ハーリクィンに喩えたのである。
彼が銀行の時間がすんでからきれいな靴で……奇妙な事柄  これも、第一巻第二章の終りのジェリーの言葉や、この後のジェ
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