年後のそれと同じような五十の館との光景を、その晩彼に見せてやることが出来たならば、彼は、火災で黒焦げにされ、掠奪で破壊された、その物凄い廃墟から、どれを自分のものとして主張していいか、途方に暮れたことであろう。彼の誇った屋根について言えば、彼はそれが[#「それが」に傍点]新しい方法で空を見えぬように遮るのを知ったであろう。――すなわち、その屋根の鉛が、幾万の小銃の銃身から発射されて、それに中《あた》った人々の死体の眼から、永久に、空を見えぬように遮る★、という新しい方法である。
「ともかく、」と侯爵が言った。「お前が望まんにしても、わしは家門の名誉と安泰とを保ってゆくつもりじゃよ。だが、お前は疲れているに違いない。今夜は話はこれで切り上げるとしようかな?」
「もうしばらく。」
「お前さえよければ、一時間でも。」
「われわれは、」と甥が言った。「悪事をして来たのです。そして今その悪事の報いを受けているのです。」
「わしたち[#「わしたち」に傍点]が悪事をして来たと?」と侯爵は、尋ねるような微笑を浮べて、最初に自分の甥を、次に自分を優雅に指さしながら、真似て言った。
「われわれの一家がです。その名誉が私たち二人ともにとって全く違った意味で非常に大切なものである、われわれの名誉ある一家がです。私の父の時代だけでさえ、われわれは、何であろうとわれわれの快楽の邪魔をした人間には一人残らず害を加えて、夥しい悪事をしたのです。私の父の時代は同時にあなたの時代なのですから、父の時代のことを話す必要などがどうしてありましょう? 私の父と双生子《ふたご》の兄弟で、共同相続人で、父の後継者であるあなたを、私は父と切り離すことが出来ましょうか?」
「死という奴が切り離してくれたよ!」と侯爵が言った。
「その父の死のために私は、」と甥が答えた。「私にとっては恐しい制度に束縛されることになり、私はその制度に対して責任はあるが、その中にあって権力がないのです。それでも、私の母の口から出た最後の願いは実行したい、母の眼に現れた最後の眼付には従いたいと思っています。その眼付は慈悲を施して罪の償《つぐな》いをするようにと私に懇願したのでした。それで、助力と権力とを求めましたが無駄だったので苦しんでいるのです。」
「そんなものをわしに求めてもだ、のう、お前、」と侯爵は、人差指で彼の胸のところに触りながら
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