のであり、またそれほど始めからよい習慣をつけておくということは望ましいことなのである。オールド・ベーリーは、また架形台★でも名高かった。これは賢明な昔の施設物の一つで、誰一人としてその程度を予知することの出来ない刑罰を課したものであった。なおまた、そこは笞刑柱★でも名高かった。これも懐《なつか》しい昔の施設物の一つであって、その刑の行われているのを見ると人をごく情深くし柔和にするのであった。それからまた、そこは殺人報償金★の手広い取引でも名高かった。これも祖先伝来の智慧の一断片であって、この下界で犯すことの出来る最も恐しい慾得ずくの犯罪へと当然に到らしめるものであった。結局、当時のオールド・ベーリーは、「何事にても現に起っていることはすべて正当なり。」という箴言の最良の例証なのであった。この格言は、かつて起ったことはすべて誤っていなかった、という厄介な結論さえ包含しなかったならば、ずいぶんものぐさな格言ではあるが、それと同時に決定的な格言であったろうが。
この忌わしい所業の場所のあちらこちらに散らばっている不潔な群集の中を、こそこそと道を歩くことに慣れた人間の巧妙さでうまく通り抜けて、例の走使いの男は自分の探している戸口を見つけ出した。そして、そこの扉《ドア》についている落し戸から例の手紙を差し入れた。人々は、その頃は、ベッドラム★にある芝居を見るのに金を払ったと同じように、オールド・ベーリーの芝居を見るのに金を払ったものであった。――ただ、後者のオールド・ベーリーの余興の方がずっと値段が高かったが。だから、オールド・ベーリーのあらゆる戸口は厳重に番人を置いてあった。――ただし、犯罪人たちが入って来る社会の戸口だけは確かにその例外で★、そこだけは常に広く開《あ》け放してあったのだ。
しばらくぐずぐず遅滞していた後に、扉《ドア》はその蝶番《ちょうつがい》のところでしぶしぶとほんのわずかばかり囘転し、そしてジェリー・クランチャー君にようやく法廷の中へ体《からだ》をぎゅっと押し入れさせた。
「何が始ってるんです?」と彼は自分の隣に居合せた男に小声で尋ねた。
「まだ何も。」
「何が始るとこなんですか?」
「叛逆事件でさ。」
「四つ裂きの事件ですね、え?」
「ああ!」とその男はさも楽しみそうに答えた。「あいつは網代橇《あじろぞり》★に載せて曳っぱられて行って半殺しに首を絞
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