められ、それから下《おろ》されて自分の眼の前で薄割《うすざ》きにされ、それから臓腑を引き出されて自分の見ている間に焼き捨てられ、それから次には首をちょん切《ぎ》られ、体を四つにぶつ切られる。そいつが判決でさあ。」
「もし有罪ときまったら、って言うんでしょう?」とジェリーは但書と言ったような意味で附け加えた。
「いや、なあに! きっと有罪になりますよ。」と相手が言った。「そいつあ心配するにゃあ及びませんや。」
 この時、クランチャー君の注意は、さっきの手紙を片手に持ってロリー氏の方へ歩いて行くのが見える門番に逸《そ》らされた。ロリー氏は、仮髪《かつら》をかぶった紳士たちの間に、一脚の卓子《テーブル》に向って腰掛けていた。そこから遠くないところに、囚人の弁護士である、仮髪《かつら》を著けた一紳士が、大束の書類を前にしていたし、また、ほとんど向い合ったところに、今一人の仮髪《かつら》を著けた紳士が、両手をポケットに突っ込んでいたが、この人の全注意は、クランチャー君がその時眺めてみた時にもその後に眺めてみた時にも、いつも法廷の天井に集中されているように思われた。ジェリーは荒々しい咳払いをして、頤をさすり、手で合図をした挙句、立ち上って彼を探しているロリー氏の目に留った。ロリー氏は静かに頷《うなず》いて、そして再び腰を下した。
「あの人は[#「あの人は」に傍点]この事件にどんな関係があるんですかい?」とジェリーのさっき口を利いた男が尋ねた。
「わっしはまるで知らねえんで。」とジェリーが言った。
「じゃあ、こんなことをお訊きしちゃ何だが、あんたは[#「あんたは」に傍点]この事件にどんな関係があるんですかね?」
「そいつもまるっきり知らねえんで。」とジェリーは言った。
 裁判官が入場し、それに続いて法廷内に非常なざわめきが起ってやがて鎮まってゆき、それらのために二人の対話は中止された。ほどなく、被告席が興味の中心点となった。今までそこに立っていた二人の看守が出て行き、やがて囚人が連れ込まれて、被告席に入れられた。
 天井を眺めている例の仮髪《かつら》を著けた紳士一人を除いて、その場にいる者は一人残らず、その被告を凝視した。場内のあらゆる人間の呼吸が、波のように、あるいは風のように、あるいは火のように、彼をめがけて押し寄せた。彼を見ようとして、多くの熱心な顔が柱の蔭や隅々から差し伸
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