くら法律だってひでえとわっしは思いますよ。人間を殺すのだって十分ひでえが、※[#「木+戈」、129−3]《くい》を打ち込むなんて全くひでえこっでさあ、旦那。」
「そんなことはちっともないさ。」と老事務員は返答した。「法律のことを悪く言うものじゃない。自分の胸にあることと声にすることに気をつけるんだよ、ねえ、お前。そして法律のことは法律にまかせておくがいい。それだけの忠告をわたしはお前にしてあげるよ。」
「わっしの胸と声に宿ってるものってのは、旦那、湿気でさあ。」とジェリーは言った。「わっしの暮し方がどんなに湿《しめ》っぽい暮し方だか、旦那のお察しに任《まか》せますよ。」
「うむ、うむ、」と老行員は言った。「わたしたちはみんなさまざまな暮しの立て方をしてるんだよ。湿っぽい暮しの立て方をしている者もあれば、干涸《ひから》びた暮しの立て方をしている者もあるさ。さあ、手紙だ。行って来てくれ。」
 ジェリーは手紙を受け取った。そして、表面に見せかけているほどには内心では敬意を持たずに、「そういうお前さんだって実入《みい》りの少い爺さんだろうよ。」と心の中で言いながら、お辞儀をして、通りすがりに自分の息子に行先を告げて、出かけて行った。
 その時代には、絞刑はタイバーン★で行われていたので、ニューゲートの外側のかの街は、その後にそこの附物《つきもの》となった一の不名誉な醜名を、まだ受けてはいなかった。しかし、その監獄は厭わしい処であった。その中では大抵の種類の背徳や悪事が行われ、そこではいろいろの恐しい疾病が生れた。その疾病は囚人と共に法廷へ入り込んで、時としては被告席から裁判所長閣下にさえ真直に突き進んで、閣下を裁判官席からひきずり下すこともあった。黒い法冠をかぶった裁判官が囚人に死の判決を宣告すると同じくらいにはっきりと自分自身に死の判決を宣告し、しかも囚人よりも先に死ぬことさえも、一度ならずあった。その他《ほか》のことについては、オールド・ベーリーは死出の旅宿のようなものとして名高かった。そこからは、色蒼ざめた旅人たちが、二輪荷車や四輪馬車に乗って、他界への非業の旅へと、絶えず出立したのである。もっとも二マイル半ばかりは一般公衆の街路や道路を通って行くのだが★、それを見て恥辱とするような善良な市民は、よしあったにしても、ごく稀であった。――それほど習慣というものは力強いも
前へ 次へ
全171ページ中69ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
ディケンズ チャールズ の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング