ていた赤い灯を指さした。
「あすこで……?」と、わたしは訊いた。
 彼は非常に注意ぶかく私を打ちまもりながら、音もないほどの低い声で「はい」と答えた。
「冗談じゃあない。私がどうしてあんなところに行っているものですか。かりに行くことがあるとしても、今はけっしてあすこにいなかったのです。そんなはずはありませんよ」
「わたしもそう思います。はい、確かにおいでにならないとは思いますが……」
 彼の態度は、わたしと同じようにはっきりしていた。彼は私の問いに対しても正確に答え、よく考えてものを言っているのである。彼はここでどのくらいの仕事をしているかといえば、彼は大いに責任のある仕事をしているといわなければならない。まず第一に、正確であること、注意ぶかくあることが、何よりも必要であり、また実務的の仕事という点からみても、彼に及ぶものはないのである。信号を変えるのも、燈火《あかり》を照らすのも、転轍《てんてつ》のハンドルをまわすのも、みな彼自身の頭脳の働きによらなければならない。
 こんなことをして、彼はここに長い寂しい時間を送っているように見えるが、彼としては自分の生活の習慣が自然にそういう形式
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