ある。一方に見えるのは、大いなる牢獄としか思われない曲がりくねった岩道の延長があるのみで、他の一方は暗い赤い灯のあるところで限られた、そこには暗黒なトンネルのいっそう暗い入り口がある。その重苦しいような畳み石は、なんとなく粗野《そや》で、しかも人を圧するような、堪《た》えられない感じがする上に、日光はほとんどここへ映《さ》し込まず、土臭い有毒らしい匂いがそこらにただよって、どこからともなしに吹いて来る冷たい風が身に沁みわたった。私はこの世にいるような気がしなくなった。
 彼が身動きをする前に、私はそのからだに触《ふ》れるほどに近づいたが、彼はやはり私を見つめている眼を離さないで、わずかにひと足あとずさりをして、挨拶の手を挙げたばかりであった。前にもいう通り、ここはまったく寂しい場所で、それが向こうから見たときにも私の注意をひいたのである。おそらくたずねて来る人は稀であるらしく、また稀に来る人をあまり歓迎もしないらしく見えた。
 わたしから観ると、彼は私が長い間どこかの狭い限られた所にとじこめられていて、それが初めて自由の身となって、鉄道事業といったような重大なる仕事に対して、新たに眼ざ
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