さし出した。
「今晩は……」と、わたしも手をさし出して挨拶した。それから二人はいつもの小屋へはいってドアをしめて、火のほとりに腰をおろした。
 椅子に着くやいなや、彼はからだを前にかがめて、ささやくような低い声で言った。
「わたしが困っているということについて、あなたが重ねておいでになろうとは思っていませんでした。実は昨晩は、あなたをほかの者だと思っていたのですが……。それが私を困らせるのです」
「それは思い違いですよ」
「もちろん、あなたではない。そのある者が私を困らせるので……」
「それは誰です」
「知りません」
「わたしに似ているのですか」
「わかりません。私はまだその顔を見たことはないのです、左の腕を顔にあてて、右の手を振って……激しく振って……。こんなふうに……」
 わたしは彼の動作を見つめていると、それは激しい感情を苛立《いらだ》たせているような腕の働き方で、彼は「どうぞ退《ど》いてくれ」と叫ぶように言った。そうして、また話し出した。
「月の明かるい、ある晩のことでした。私がここに腰をかけていると〈おぅい、下にいる人!〉と呼ぶ声を聞いたのです。私はすぐに起《た》って、そのド
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