いるばかりでもなかった。またそれは無花果がじくじくとして和らかであったばかりでも、また仏蘭西梅が盛に飾り立てた箱の中からほどの好い酸味を持って顔を赧めながら覗いているばかりでも、または何でも彼でも喰べるに好く、また聖降誕祭の装いを凝らしているばかりでもなかった。それよりもむしろお客が皆この日の嬉しい期待に気が急いで夢中になっているのであった、そのために入口で互いに突き当って転がったり、柳の枝製の籠を乱暴に押し潰したり、帳場の上に買物を忘れて帰ったり、またそれを取りに駆け戻って来たりして、同じ様な間違いを幾度となく極上の機嫌で繰返しているのであった。同時に食料品屋の主人も店の者も、前垂を背中で締め着けている磨き上げた心臓型の留め金は、一般の方々に見て頂くために、またお望みなら聖降誕祭の鴉どもに啄いて貰うために、表側に懸けた彼等自身の心臓で御座いと云わぬばかりに開放的にかつ生々と働いていた。
 が、間もなく方々の尖塔(の鐘)は教会や礼拝堂に善男善女を呼び集めた。彼等は、晴れ着を着飾って街一杯に群がりながら、さもさも愉快そうな顔を揃えて、ぞろぞろと出掛けて来た。すると、同時に数多の横町、小径
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