、名もない角々から、無数の人々が自分達の御馳走を麺麭屋の店へ搬びながら出て来た。これ等の貧しい人々の楽しそうな光景は、痛く精霊の御意に適ったと見えて、彼は麺麭屋の入口に、スクルージを自分の傍に惹き附けながら立っていた。そして、彼等が御馳走を持って通る毎に蓋を取って、松明からその御馳走の上に香料を振りかけてやった。その松明がまた普通の松明ではなかった、と云うのは、一度か二度御馳走を搬んで来た人達が互に押し合いへし[#「へし」に傍点]合いして喧嘩を始めた時、彼はその松明から彼等の上に二三滴の水を振りかけてやった。すると、彼等はたちまち元通りの好い機嫌になったものだ。彼等はまた、何しろ聖降誕祭の日に喧嘩するなんて恥かしいこったと云ったものだ。その通りだとも! まったく、その通りだとも!
その内に鐘の音は止んだ。そして、麺麭屋の店も閉じられた。しかしどこの麺麭屋でもその竈の上の雪溶けの濡れた所には、それ等の御馳走やその料理の進行に伴うのどかな影がほんのりと表われていた。つまりそこでは、どうやらその石まで料理されているように、舗道が湯気を立てていたのである。
「貴方が松明から振り掛けなさいます
前へ
次へ
全184ページ中92ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
ディケンズ チャールズ の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング