れと切に懇願したり嘆願したりしていた。これ等の精選した果物の間には、金魚銀魚が鉢に入れて出してあったが、そんな無神経な血の運りの悪い動物でも、世の中には何事か起っていると云うことを感知しているように見えた。そして、一尾残らずゆっくりした情熱のない昂奮の下に彼等の小さな世界をぐるぐると喘ぎながら廻っていた。
 食料品屋! おお食料品屋! 恐らくは一二枚の雨戸を外して、自余《あと》は大概締めてあった。だが、その隙間からだけでも、こんな光景がずらりと見えるんだ! それは単に秤皿が帳場の上まで降りて来て愉快な音を立てているばかりではなかった。また撚糸がそれを捲いてある軸からぐるぐると活発に離れて来るばかりではなかった。また缶が手品を使っているようにからからと音を立ててあちこち転がっているばかりではなかった。また茶と珈琲の交じった香気が鼻に取って誠に有難かったり、乾葡萄が沢山あって而も極上等に、巴旦杏が素敵に真白で、肉桂の棒が長くかつ真直で、その他の香料も非常に香ばしく、砂糖漬けの果物が、極めて冷淡な傍観者でも気が遠くなって、続いて苛々して来るほどに、溶かした砂糖で固めたり塗《まぶ》したりされて
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