い、霜枯れた、噛みつくような日であった。おまけに霧も多かった。彼は戸外の路地で人々がふうふう息を吐いたり、胸に手を叩きつけたり、煖くなるようにと思って敷石に足をばたばた踏みつけたりしながら、あちらこちらと往来しているのを耳にした。街の時計は方々で今し方三時を打ったばかりだのに、もうすっかり暗くなっていた。――もっとも終日明るくはなかったのだ。――隣近所の事務所の窓の中では、手にも触れられそうな鳶色をした空気の中に、赤い汚点の様に、蝋燭がはたはたと揺れながら燃えていた。霧はどんな隙間からも、鍵穴からも流れ込んで来た。そして、この路地はごくごく狭い方だのに、向う側の家並はただぼんやり幻影の様に見えたほど、戸外は霧が濃密であった。どんよりした雲が垂れ下がって来て、何から何まで蔽い隠して行くのを見ると、自然がつい近所に住んでいて、素敵もない大きな烟の雲を吐き出しているんだと考える人があるかも知れない。
 スクルージの事務所の戸は、大桶のような、向うの陰気な小部屋で、沢山の手紙を写している書記を見張るために開け放しになっていた。スクルージはほんのちっとばかりの火を持っていた。が、書記の火はもっと
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