金子を払うと云うことは金輪際なかった。
何人もかつて往来で彼を呼び留めて、嬉しそうな顔つきをして、「スクルージさん、御機嫌はいかがですか。何日私の許へ会いに来て下さいます?」なぞと訊く者はなかった。乞食も彼に一文遣って下さいと縋ったことがなく、子供達も今いつです? と彼に訊いたことがなかった。男でも女でも、彼の生れてから未だ一度も、こうこういうところへはどう行きますかと、スクルージに道筋を訊ねた者はなかった。盲人の畜犬ですら、彼を知っているらしく、彼がやって来るのを見ると、その飼主を戸口の中や路地の奥へ引っ張り込んだものだ。そして、それから「丸っ切り眼のないものはまだしも悪の眼を持っているより優《ま》しですよ、盲人の旦那」とでも云うように、その尾を振ったものだ。
だが、何をそんな事スクルージが気に懸けようぞ! それこそ彼の望むところであった。人情なぞは皆遠くに退いておれと警告しながら、人生の人ごみの道筋を押し分けて進んで行くことが、スクルージに取っては通人の所謂『大好物』であった。
ある時――日もあろうに、聖降誕祭の前夜に――老スクルージは事務所に坐っていそがしそうにしていた。寒
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