、その魂は運命を定められているのだよ。」
 幽霊は再び叫び声を挙げた。そして、その鎖を揺振って、その幻影のような両手を絞った。
「貴方は縛られておいでですね」と、スクルージは顫えながら云った。「どういう訳ですか。」
「私が存命中に鍛えた鎖を身に着けているのさ」と幽霊は答えた。「私は一輪ずつ、一ヤードずつ、拵えて行った。そして、自分の勝手で捲き附けたのだ。自分の勝手で身に着けたのだ。お前さんはこの鎖の型に見覚えがないかね。」
 スクルージはいよいよますます慄えた。
「それとも」と、幽霊は言葉をつづけた、「お前さんは自分でも背負っているその頑丈な捲環の重さと長さを知りたいかね。それは七年前の聖降誕祭の前晩にも、これに負けないくらい重くて長かったよ。その後もお前さんは苦労してそれを殖やして来たからね。今は素晴らしく重い鎖になってるよ。」
 スクルージは、もしか自分もあんな五六十尋もあるような鉄の綱で取り巻かれているのじゃないかと、周囲の床の上を見廻した。しかし何も見ることは出来なかった。
「ジェコブ(註、これは猶太人に多い名であるそうな。スクルージの洗礼名エベネザアも同様。)」と、彼は憐みを乞うように云った。「老ジェコブ・マアレイよ、もっと話しをしておくれ。気の引き立つようなことを云っておくれ、ジェコブよ。」
「何も上げるものはないよ」と、幽霊は答えた。「そんなものは他の世界から来るのだ、エベネザア・スクルージよ。そして、他の使者がもっと質の違った人間の許へもって行くのよ。それにまた私は自分の云いたいことを話す訳にも行かない。後もう[#「もう」に傍点]ほんの少しの時間しか許されていないのだからね。私は休むことも停まってることも出来ない。どこにもぐずぐずしてることも出来ない。私の魂は私どもの事務所より外へ出たことがなかった。――よく聴いておいでよ――生きてる間、私の魂は私どもの帳場の狭い天地より一歩も出なかった。そして、今や飽き飽きするような長たらしい旅程が私の前に横わっているんだよ。」
 スクルージが考え込む時には、いつでもズボンのポッケットに両手を突っ込むのが癖であった。幽霊の云ったことをつくづく考え運らしながら、今も彼はそうしていた。が、眼も挙げなければ、立ち上がりもしなかった。
「極くゆっくりとやって来たのでしょうね。」と、スクルージは謙遜で丁寧ではあったが、事務的
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