な口調で訊いた。
「ゆっくりだ!」と、幽霊は相手の言葉を繰り返した。
「死んで七年」と、スクルージは考えるように云った。「その間始終歩き通しでしょう?」
「始終だとも」と、幽霊は云った。「休息もなければ、安心もない。絶え間なく後悔に苦しめられてるんだよ。」
「では、よほど速く歩いてるのですか」と、スクルージは訊いた。
「風の翼に乗ってよ」と、幽霊は答えた。
「それじゃ七年間には随分沢山の道程《みちのり》が歩かれたでしょう」と、スクルージは云った。
幽霊は、それを聞いて、もう一度叫び声を挙げた。そして、区がそれを安眠妨害として告発しても差支えなかろうと思われるような、怖ろしい物音を真夜中に立てて、鏈をガチャガチャと鳴らした。
「おお! 縛られた、二重に足枷を嵌められた捕虜よ」と、幽霊は叫んだ、「不死の人々のこの世のためにせらるる不断の努力の幾時代も、この世の受け得る善のまだことごとく展開し切らないうちに、永劫の常闇の中に葬られざるを得ないと云うことを知らないとは。どんな境遇にあるにせよ、その小さな範囲内で、それぞれその性に合った働きをしている基督教徒の魂が、いずれも自分に与えられた人の為に尽す力の広大なのに比べて、その一生の余りに短きに過ぐるを嘆じていると云うことを知らないとは。一生の機会を誤用したことに対しては、いくら永い間後悔を続けてもそれを償うに足りないと云うことを知らないとは! しかも私はそう云う人間であった! ああ、私はそう云う人間であったのだ!」
「だがしかし、お前さんはいつも立派な事務家でしたがね」と、スクルージは言い淀みながら云った。彼は今や相手の言葉を我が身に当て嵌めて考え出したのである。
「事務だって!」と、幽霊はまたもや其の手を揉み合せながら叫んだ。「人類が私の事務だったよ。社会の安寧が私の事務だった。慈善と、恵みと、堪忍と、博愛と、すべてが私のすべき事務だったよ。商売上の取引なぞは、私の職務という広大無辺な海洋中の水一滴に過ぎなかったのだ。」幽霊は、これが有らゆる自分の無益な悲嘆の源泉であるぞと云わんばかりに、腕を一杯に伸ばしてその鎖を持ち上げた。そして、それを再び床の上にどさりと投げ出した。
「一年のこの時節には」と幽霊は云った、「私は一番苦しむのだ。何故私は同胞の群がっている中を眼を伏せたまま通り抜けたろう! そして、東方の博士達を一貧家
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