「どうも遅なり[#「遅なり」は底本では「遅なわり」]まして。」
「遅いね!」と、スクルージは繰り返した。「実際、遅いと思うね。まあ君ここへ出なさい。」
「一年にたった一度の事で御座いますから」と、ボブは桶の中から現われながら弁解した。「二度と[#「二度と」は底本では「二廣と」]もうこんな事は致しませんから。どうも昨日は少し騒ぎ過ぎたのですよ、旦那。」
「では、真実《ほんとう》のところを君に云うがね、君」と、スクルージは云った。「俺《わし》はもうこんな事には一日も耐えられそうにないよ。そこでだね」と続けながら、彼は床几から飛び上がるようにして、相手の胴衣《チョッキ》の辺りをぐい[#「ぐい」に傍点]と一本突いたものだ。その結果、ボブはよろよろとして、再び桶の中へ蹣跚《よろめき》き込んだ。「そこでだね、俺は君の給料を上げてやろうと思うんだよ。」
ボブは顫え上がった。そして、少し許り定規の方へ近寄った。それで以ってスクルージを張り倒して、抑え附けて、路地の中を歩いている人々に助けを喚んで、狭窄衣でも持って来て貰おうと咄嗟に考えたのである。
「聖降誕祭お目出とう、ボブ君!」と、スクルージは相手の背中を軽く打ちながら、間違えようにも間違えようのない熱誠を籠めて云った。「この幾年もの間俺が君に祝って上げたよりも一層目出たい聖降誕祭だよ、ええ君。俺は君の給料を上げて、困っている君の家族の方々を扶けて上げたいと思っているのだがね。午後になったら、すぐにも葡萄酒の大盃を挙げて、それを飲みながら君の家《うち》のことも相談しようじゃないか、ええボブ君! 火を拵えなさい。それから四の五の云わずに大急ぎでもう一つ炭取りを買って来るんだよ、ボブ・クラチット君!」
スクルージは彼の言葉よりももっと好かった。彼はすべてその約束を実行した。いや、それよりも無限に多くのものを実行した。そして、実際は死んでいなかったちび[#「ちび」に傍点]のティムに取っては、第二の父となった。彼はこの好い古い都なる倫敦《ロンドン》にもかつてなかったような、あるいはこの好い古い世界の中の、その他のいかなる好い古い都にも、町にも、村にもかつてなかったような善い友達ともなれば、善い主人ともなった、また善い人間ともなった、ある人々は彼がかく一変したのを見て笑った。が、彼はその人々の笑うに任せて、少しも心に留めなかった。彼はこ
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