誕祭お目出とう!」
「スクルージさんでしたか。」
「そうですよ」と、スクルージは云った。「仰しゃる通りの名前ですが、どうも貴方には面白くない感じを与えましょうね? ですが、まあどうか勘弁して下さい。それから一つお願いが御座いますがね――」ここでスクルージは何やら彼の耳に囁いた。
「まあ驚きましたね!」と、かの紳士は呼吸《いき》が絶えでもしたように叫んだ。「スクルージさん、そりゃ貴方本気ですか。」
「なにとぞ」と、スクルージは云った。「それより一文も欠けず、それだけお願いしたいので。もっとも、それには今まで何度も不払いになっている分が含まれているんですがね。で、その御面倒を願われましょうか。」
「もし貴方」と、相手は彼の手を握り緊めながら云った。「かような御寛厚なお志に対しましては、もう何と申上げて宜しいやら、私には――」
「もう何も仰しゃって下さいますな」と、スクルージは云い返した。「一度来て下さい。一度手前どもへいらして下さいませんでしょうか。」
「伺いますとも」と、老紳士は叫んだ。そして、彼がその積りでいることは明白であった。
「有難う御座います」と、スクルージは云った。「本当に有難う御座います。幾重にもお礼を申上げますよ。それではお静かに!」
 彼は教会へ出掛けた。それから街々を歩き廻りながら、あちこちと忙しそうにしている人々を眺めたり、子供の頭を撫でたり、乞食に物を問い掛けたり、家々の台所を覗き込んだり、窓を見上げたりした。そして、何を見ても何をしても愉快になるものだと云うことを発見した。彼はこれまで散歩なぞが――いや、どんな事でもこんなに自分を幸福にしてくれることが出来ようとは夢にも想わなかった。午後になって、彼は歩みを甥の家に向けた。
 彼は近づいて戸を敲くだけの勇気を出す前に、何度も戸口を通り越したものだ。が、勇を鼓してとうとうそれをやっ附けた。
「御主人は御在宅かな」と、スクルージは出て来た娘に云った。好い娘だ! 本当に。
「いらっしゃいます。」
「どこにおいでかね」と、スクルージは訊いた。
「食堂にいらっしゃいます、奥様と御一緒に。それでは、お二階に御案内申しましょう。」
「有難うよ。御主人は俺《わし》を知ってだから」と、スクルージはもう食堂の錠の上に片手を懸けながら云った。「すぐにこの中に這入って行くよ、ねえ。」
 彼はそっとそれを廻わした。そし
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