に何の秩序もあるように見えなかった――実業家達の集まる場所へ彼を連れていった。が、彼自身の影は少しも見せてくれなかった。実際精霊は何物にも足を留めないで、今所望された目的を指してでもいるように、一直線に進んで行った。とうとうスクルージの方で一寸待って貰うように頼んだものだ。
「只今二人が急いで通り過ぎたこの路地は」と、スクルージは云った。「私が商売をしている場所で、しかも長い間やっている所で御座います。その家が見えます。未来における私はどんな事になっていますか。なにとぞ見せて下さいませ!」
精霊は立ち停まった。その手はどこか他の所を指していた。
「その家は向うに御座います」と、スクルージは絶叫した。「何故《なぜ》貴方は他所《よそ》を指すのですか。」
頑として仮借する所のない指は何の変化も受けなかった。
スクルージは彼の事務所の窓の所へ急いで、中を覗いて見た。それは矢張り一つの事務所ではあった。が、彼のではなかった。家具が前と同じではなかった。椅子に掛けた人物も彼自身ではなかった。精霊は前の通りに指さしていた。
彼はもう一度精霊と一緒になって、自分はどうしてまたどこへ行ってしまったかと怪しみながら、精霊に随いて行くうちに、到頭二人は一つの鉄門に到着した。彼は這入る前に、一寸立ち停って、四辺《あたり》を見廻した。
墓場。ここに、その時、彼が今やその名を教えらるべきあの不幸なる男は、その土の下に横わっていたのである。それは結構な場所であった。四面家に取りかこまれて、生い茂る雑草や葭に蔽われていた。その雑草や葭は植物の生の産物ではなく、死の産物であった。また余りに人を埋め過ぎるために息の塞るようになっていた。そして、満腹のために肥え切っていた。誠に結構な場所であった!
精霊は墓の前に立って、その中の一つを指差した。彼はぶるぶる慄えながらその方に歩み寄った。精霊は元の通りで寸分変る所はなかった。而も彼はその厳粛な姿形に新しい意味を見出したように畏れた。
「貴方の指していらっしゃるその石の傍へ近づかないうちに」と、スクルージは云った、「なにとぞ一つの質問に答えて下さい。これ等は将来本当にある物の影で御座いましょうか、それともただ単にあるかも知れない物の影で御座いましょうか。」
精霊は依然[#「依然」は底本では「 然」]として自分の立って居る傍の墓石の方へ指を向けて
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