いた。
「人の行く道は、それに固守して居れば、どうしてある定まった結果に到達する――それは前以て分りもいたしましょう」と、スクルージは云った。「が、その道を離れてしまえば、結果も変るものでしょう。貴方が私にお示しになることについても、そうだと仰しゃって下さいな!」
 精霊は依然として動かなかった。
 スクルージはぶるぶる慄えながら、精霊の方に這い寄った。そして、指の差す方角へ眼で従いながら、打捨り放しにされたその墓石の上に、「エベネザア・スクルージ」と云う自分自身の名前を読んだ。
「あの寝床の上に横わっていた男は私なのですか」と、彼は膝をついて叫んだ。
 精霊の指は墓から彼の方に向けられた、そしてまた元に返った。
「いえ、精霊殿、おお、いえ、いいえ!」
 指は矢張りそこにあった。
「精霊殿!」と、彼はその衣にしっかり噛じりつきながら叫んだ。「お聞き下さい! 私はもう以前の私では御座いません。私はこうやって精霊様方とお交りをしなかったら、なった筈の人間には断じてなりませんよ。で、若し私に全然見込みがないものなら、何故こんなものを私に見せて下さるのです?」
 この時始めてその手は顫えるように見えた。
「善良なる精霊殿よ」と、彼は精霊の前の地に領伏《ひれふ》しながら言葉を続けた。「貴方は私のために取り做して、私を憐れんで下さいます。私はまだ今後の心を入れ代えた生活に依って、貴方がお示しになったあの幻影を一変することが出来ると云うことを保証して下さいませ!」
 その親切な手はぶるぶると顫えた。
「私は心の中に聖降誕祭を祝います。そして、一年中それを守って見せます。私は過去にも、現在にも、未来にも(心を入れ代えて)生きる積りです。三人の精霊方は皆私の心の中にあって力を入れて下さいましょう。皆様の教えて下すった教訓を閉め出すような真似はいたしません。おお、この墓石の上に書いてある文句を拭き消すことが出来ると仰しゃって下さい!」
 苦悶[#「苦悶」は底本では「若悶」]の余りに、彼は精霊の手を捕えた。精霊はそれを振り放とうとした。が、彼も懇願にかけては強かった。そして、精霊を引き留めた。が、精霊の方はまだまだ強かったので、彼を刎ね退けた。
 自己の運命を引っ繰り返して貰いたさの最後の祈誓に両手を差上げながら、彼は精霊の頭巾と着物とに一つの変化を認めた。精霊は縮まって、ひしゃげて、小
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