ね」と、クラチットの主婦《かみ》さんは云った。
「お前も会って話しをして見たら、一層にそう思うだろうよ」と、ボブは返辞をした。「私はね、あの方に頼んだら――いいかい、お聞きよ――何かピータアに好い口を見附けて下さるような気がするんだがね。」
「まあ、あれをお聞きよ、ピータア」と、クラチットの主婦《かみ》さんは云った。
「そして、それから」と、娘の一人が叫んだ。「ピータアは誰かと一緒になって、別に世帯を持つようになるのだわね。」
「馬鹿云え!」と、ピータアはにたにた笑いをしながら云い返した。
「まあまあ、そう云うことにもなるだろうよ」と、ボブは云った。「いずれその間《うち》にはさ、もっとも、それにはまだ大分時日があるだろうがね。しかし何日《いつ》どう云う風にして各自《めいめい》が別れ別れになるにしても、きっと家《うち》の者は誰一人あのちび[#「ちび」に傍点]のティムのことを――うん、私達家族の間に起った最初のこの別れを決して忘れないだろうよ――忘れるだろうかね。」
「決して忘れませんよ、阿父さん!」と、一同異口同音に叫んだ。
「そしてね、皆はあの子が――あんな小さい、小さい子だったが――いかにも我慢強くて温和《おとな》しかったことを思い出せば、そう安々と家《うち》の者同志で喧嘩もしないだろうし、またそんな事をして、あのちび[#「ちび」に傍点]のティムを忘れるようなこともないだろうねえ、私はそう思ってるよ。」
「いいえ、決してそんな事はありませんよ、阿父さん!」と、また一同の者が叫んだ。
「私は本当に嬉しい」と、親愛なるボブは叫んだ。「私は本当に嬉しいよ。」
クラチットの主婦《かみ》さんは彼に接吻した、娘達も彼に接吻した、二人の少年クラチットどもも彼に接吻した。そして、ピータアと彼自身とは握手した。ちび[#「ちび」に傍点]のティムの魂よ、汝の子供らしき本質は神から来れるものなりき。
「精霊殿!」と、スクルージは云った。「どうやら私どもの別れる時間が近づいたような気がいたします。そんな気はいたしますが、どうしてかは私には分かりませぬ。私どもが死んでるのを見たあれは、どう云う人間だか、なにとぞ教えて下さいませ。」
未来の聖降誕祭の精霊は前と同じように――もっとも、前と違った時ではあったがと、彼は考えた。実際最近に見た幻影は、すべてが未来のことであると云う以外には、その間
前へ
次へ
全92ページ中81ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
ディケンズ チャールズ の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング